長崎地方裁判所厳原支部 昭和41年(わ)7号 判決 1966年3月09日
被告人 日高誠
主文
被告人を懲役八月竝に罰金八千円に処する。
但し本裁判確定の日から二年間右懲役刑のみ執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一法令に基く場合でないのに昭和四十年十二月十日頃から昭和四十一年二月十三日までの間長崎県下県郡美津島町大字吹崎一九三番地第三の自宅において法定の除外事由なくダイナマイト二本、雷管一個、導火線約一米五〇の火薬類を所持し
第二法定の除外事由にあたらないのに昭和四十一年二月十三日午後一時四十五分頃前掲自宅前海岸において右ダイナマイト二本(約二〇〇グラム)雷管一個、導火線約九センチメートルを以て通称「ゲンコツ」と称する爆発物を形成し導火線に燐寸で点火し右海岸から約四米先の海中に投入し右爆発物を爆発させ水産動植物である「ちぬ」等数十尾の魚類を採捕し
第三右日時場所において右爆発物を爆発させる際、的がはずれ誤つて附近の漁船六隻のうち波止場の一番根元に繋留してあつた田中久一所有に係る漁船寿丸(一、〇四トン、デイゼル七馬力)の船底の真下に投げ入れ之を爆破覆没せしめ
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(弁護人の主張に対する判断)
被告人の弁護人は魚を殺した丈けで採捕していないと主張するのでこの点につき検討するに本公判で顕示した各証拠を綜合すると、被告人は魚「チヌ」を捕る目的で爆発物の導火線に点火し海中に投げ入れ棲息する「チヌ」数十尾を爆死させ海上に浮上させた事実が認められる。水産資源保護法第五条に「爆発物を使用し水産動植物を採捕してはならない」という意義は同法の立法趣旨が水産動植物の種族の絶滅を防ぐ危険な漁法を制限し、水産資源の保護、培養を図りその効果を将来にわたつて維持せんとするにあるので、爆発物を使用しその箇所に棲息していた「チヌ」の生命を奪い浮上らせた以上一般的見解としては生命力ある「チヌを採捕したというべく死体となつた「チヌ」を現実に拾い集めて握有すると否とを問わぬものと解するを相当とする。よつて弁護人の主張は採用しない。
(法令の適用)
法律に照すに、被告人の判示所為中第一の火薬類所持の点は火薬類取締法第二十一条、第五十九条第二号に、第二の魚類採捕の点は水産資源保護法第五条、第三十六条に、第三の過失妨害の点は刑法第百二十九条第一項に各該当し判示第一と第二は罰金等臨時措置法第二条にも該当し懲役刑を選択し、判示第三は同法第二条、第三条にも該当し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条、第十条を適用し、最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において被告人を懲役八月竝に罰金八千円に処し、刑法第二十五条に則り本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用し被告人に負担させないこととする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 井上享)